篁 平成24年 第13集

 「火曜短歌会」に参加し始めてから半年ほどすると「たかむら」のことが話題になったが、何の事だか分らなかった。それは歌集「篁」のことで、短歌10首を先生に提出して歌集にまとめられる話であった。

 私にとって初めてのことなので、自分の下手な短歌から10首も選び出すなど難しいもとで悩んだ末、今年の3月に亡くなった兄の歌を選ぶことにした。

「 兄を偲ぶ歌 」

□ 帰る度背中丸まる兄の横 少し膝曲げ写真納まる

□ 停車場に「青い山脈」歌残し 雪壁沿いに兄病む街へ

□ 筆談の筆持つ手にも力なく 一筆(ひとふで)遺し筆こぼれ落ち

□ 肉落ちて頬骨目立つ兄の顔 撫でて語れど返る(こと)なし

□ ローソクの燃え尽きる如く息消て どさっと音し雪崩れ落ち

□ くわくわと明け烏鳴く春寒の 兄旅立つ朝に名残雪積む

□ 風寒し納骨拒む深雪に 預かり給え草木芽吹くまで

□ 祭壇も供えの花も片付きし 主なき部屋の明かり寒々

□ 仏事済み晴れて門出の孫送る 手を振る爺の無きぞ哀しき

   百ヶ日兄の納骨に雨降りて 僧衣を濡らし梅雨に入りけむ

   「栗駒の紅葉は良かったナー」と少し遅れて賀状が届いた。字が少し曲がっていて病床で書いたものであろう。それでも兄らしいしっかりとした書体であった。その頃は、また来年も一緒に紅葉を観たいと思っていたに違いない。その時は、この写真が兄との最後の写真になろうとは思ってもいなかった・・・

兄と最後の紅葉見物(息子と一緒)
兄と最後の紅葉見物(息子と一緒)

 甥と相談して、あまり外出しなくなってしまった兄を栗駒・小安峡・河原ゲの紅葉見物のドライブに連れ出した・・・この時は、まだまだ元気で兄らしくお財布のお金を確認して、弟に何かご馳走しようよ思っていたらしい・・・逆に私がこれまで面倒見てもらったお礼をと思ったのですが、休日の小安峡の温泉街は満席で、甥子の馴染みの食堂での昼食となった。

 <歌集に載せなかった短歌>

□ 病床で酒飲む仕草し眼を合わし 酒を好んだ兄の気遣い

□ 語りかけ足をくすぐり背をさする ああ末の()の定め哀しき

□ 夜汽車にて駆けつけし兄気管病み 点滴止めて長兄(あに)との別れ

□ まだ少し肌に温もり残る兄 雪解けの道を皆待つ家に

□ 黒縁の中に納まる兄の顔 口元笑みて何か語らむ

□ 義父(ちち)送る御詠歌の調べゆるゆると 鐘打つ婿や初七日の夜

□ 雪を踏み本堂に入り正座せし 仏を送るお経身に沁む

 

 兄危篤の知らせに富山の兄も風邪をおして夜行列車で駆け付けたが、無理がたたり風邪が悪化し告別式の朝に救急車で緊急入院してしまった。

□ 発作起き救急車呼ぶ夜明け前 連れて行くなと亡兄(あに)にすがりつ

□ 高熱にワナワナ震える手を握り 成す術知らず声かけ続け

□ 熱高く 血圧低く 息細し 眠り続ける兄揺り起す

□ 平熱で血圧戻り久々に 熊捕り話に笑う姪子等

□ 肺炎も癒えて加療の兄残し 春まだ遅き北国を立つ

□ 寂しさを忘るる旅か兄逝きて 車窓の酒も苦く切なし