Tak Matsumoto Tour 2016  ‐The Voyage‐

松本 孝弘 武道館公演 (2016.5.7)

 連休の後半、息子とTAK松本の武道館ライブに出かけた。これまでB'zのギタリストとして何度も見たことがあるが、ソロ公演初めてである。いつものようにかなり早い時間に会場に到着し、息子がグッツを見て回っている間、私は園内のレストランでビールを飲みながら「チベット旅行記」を読んでいた。

 暗転の中にザーザーと海岸の波の音が流れスポットライトが点り、開演されると同時にドズンというドラムの大音響がお腹に響き、エレキギターの音の嵐が押し寄せてきた。

 これこそがロック・ライブの醍醐味だと感じた。いつもだと大歓声と同時に総立ちとなり、拳を振り上げるフアンもこのド迫力に圧倒された感じで、立ったままのフアンは少なく、ほどんどが座ったまま聴いていた。ひとしきりの演奏を終えて、口の重いマッチャンがマイクを握った。そして、今回はVoyage(大航海)がライブのテーマですと話し始めた。良いことも、悪いことも、悲しみも乗り越えて行く、人生という航海をライブで表現したいと語った。更に今回は、INSTRUMENTAL  SONG(楽器が歌う)に挑戦したいと意欲を示した。最後に熊本地震に触れ、自分たちができることで支援して行きたいと付け加えた。そしてザーザーと波の音が航海をイメージするBGMとして終演まで流れていた。

 ステージの中央には、Voyage(航海)の象徴として大きな羅針盤が投影され、演奏に伴って帆船が航海を続け行くのだ。そしてメッセージが流れた。

「運命にままに海原に漂い 神秘に満ちた旅路を通して 人生は1つの長い謎解きなのだ あけ放された海原、遥かなる海原を旅しながら」(小南の意訳)

このナレーションに続くマッチャンのバラードには心をつかまれた・・・

 続いてこんなメセージもあった。

「鏡のなかの自分をみてごらん ただ歳を重ねてゆくだけでいいの? 自分が歩み行く道の知恵や知識を蓄えて来たかい?」(小南の意訳)こんな呟きに続くバラードもしんみりと聞いていた。更にテーマ曲「The Voyage」へと続いていった・・・

 そして、その帆船が江戸に到着するとバックに次々と浮世絵が投影された。江戸時代の庶民の暮らしや歌舞伎の錦絵が元禄時代の華やかな世界へと導き、近代の楽器エレキギターの奏でる音色が、まるで当時も存在していたかのような錯覚に陥った・・・ジャンルはロックでも、こんな雰囲気に浸ることができるのかと時折眼をつぶって聴いていた。

 ただ、武道館という大きな会場で、最大限に増幅された音響は、グラミー賞を受賞するほどのマッチャンの切れの良い演奏を損ねてしまっているように思えた。まるで音痴の私ごときが、こんなことを言える筈もないのだが正直な感想である。今から10年以上も前のことであるが、病気の息子にせがまれて前橋までB'zのライブに出かけたことがある。その時は、スタッフの責任者が最前列の通路に特別席を設けてくれた。確かに巨大スピーカーからの大音響が体全体に響いてきたが、マッチャンの手さばきを見ながら聴いた澄んだギターの音色は耳の奥に残っており、今でも忘れられない思い出である。