野力奏一&坂井紅介 at SPACE1497 11.15

  上:野力奏一、下:坂井紅介
  上:野力奏一、下:坂井紅介

 11月15日、スペース1497にベーストークや鈴木良雄(Chinさん)とのデュオでお目にかっかているピアニストの野力奏一氏とベーシストの坂井紅介氏がやってくるので出かけた。このジャズバーには先代がお元気な頃からお邪魔していて、今のオーナーとも顔馴染みになっているし、野力さんの華麗な音色のピアノを聴くのは久しぶりなので楽しみにしていた。

 Chinさんのベースは何度も聴いたが、坂井紅介さんのベースは、今回が初めてなので、どんな音色を聴かせてくれるのかも楽しみである。

 だが、開演時間の7時半を過ぎても、お客さんの出足は鈍く、少し遅れてスタートした。やはり、心なしか少し気合の入らない出だしだったように感じた。

 最初は野力さんが作曲した「三日月」から始まり、次は紅介さんの作品と、お互いに自作の曲を演奏してくれた。

 最初の野力さん作曲のクレッセント(三日月)という曲で、旋律は 繊細で美しく、穏やかな気持ちになる心癒される曲であった。昨夜はスーパームーンでしたが、生憎の曇り空で見えませんでしたので、「三日月」を最初にお贈りしましたと野力さんが挨拶した。ピアノに手を触れると流れるような旋律を奏でる野力さんだが、お話の方は、どうも苦手な様子である。

 演奏が始まる前は、雲に隠れていた月も休憩時間に入る頃には、雲が流れ満月の姿を見せてくれた。野力さんが、みんなで月を見ようと言い出し、外に出て月を眺めた。

 私は持参した「二階堂」のボトルを野力さんに手渡した。そして息子が「寺井尚子のファストアルバム」を取出しサインをお願いしていた。彼女の最初のアルバムで野力さんと紅介さんが共演していたのだ。

 そのデビューアルバムに収録されている「パキラ(植物の種類)」という曲の坂井紅介さんのベースは、独特なリズムを刻みとても印象的だと息子が話していた。野力さんは、そのアルバムをたいそう懐かしそうに手に取り、紅介さんのサインも貰わねばと言ってくれた。

 第2ステージは野力さんのソロで、先月まで一緒にやっていたというトランぺッターの大野俊三氏作曲の「月光」という曲を弾いてくれた。聴いているとその情景が浮かんでくるようで、先ほど眺めた満月の情景にマッチした選曲であった。

 それから「ダブル・レインボー」を演奏しアントニオ・カルロス・ジョヴィンの隠れた名曲だと紹介してくれた。まるで虹が眼に浮かんでくるような煌びやか演奏であった。ピアノから手を離し、今日は情景を歌った曲が多いなあと野力さんが呟くように言った。

 坂井紅介さんは、作曲した贈る言葉」に横浜のアマチュアバンドが気に入って歌詞をつけてくれたと言ってから演奏を始めた。

  紅介さんのベースはメロディーを重視した奏法で、特に高音部の音は心に響いてきて、まるでベースが歌っているように聞こえてた。何しろ最前列でベースの手さばきと肩を大きく動かす息遣いを見ながら聴いていると、こちらまで息を止めて聴き入るほどの一体感を覚えた。正にライブの醍醐味を味わうことができた。

 少し年配の紅介さんのそんな様子を見て、野力さんが「大丈夫ですか」と気遣い、選曲を相談しながら演奏を進めた。その曲は、野力さんと一緒に演奏活動していたいうテナーサックス奏者の故井上淑彦さんの「FIREWORKS(花火)」という曲であった。野力さんの想いを込めたピアノは、花火のように煌びやかに光を放って夜空に上がっている様子が目に浮かぶようであった。

 続いて、野力さんが、浅草で酔っ払い吾妻橋を渡りながら思い浮かんだ曲だと言って「吾妻橋」を演奏してくれた。これもまた隅田川の春の宵を雰囲気を醸し出しているように思った。

 同じジャズでも、まるで抒情歌のように聴こえるのかと感心した。

左:野力奏一、小南、右:坂井紅介
左:野力奏一、小南、右:坂井紅介

 今夜は少し寒いが満月であった。野力さんは、吉本バナナ原作(映画『キッチン』の曲)のために作曲した「キッチン(満月)」を演奏した。 今夜の月の美しい満月が、心に浮かぶようであった。この映画のサントラ版のCDとしてリリースされたが、既に入手が困難な状況にあり、息子が野力さんに再発売を頼むと、他のフアンからの要望もあり交渉しているが、「版権の問題」があり難航していると言っていた。

 

 今夜は楽しい時間を過ごしたし、赤ワインをいただいて高揚した気分で家路についた。帰りがけにオーナーとお話し、お客さんが少ないのでもったいないから、集客の提案をしたいと言って名刺をいただき、11月19日にまた来ますと言い残して帰った。