Encore Budokan Recital 12.11 Orchard Hall

SADAO WATANABE With DAVE GRUSIN & friends

 12月11日、渋谷の文化村オーチャードホールで渡辺貞夫のライブがあるというので息子と一緒に出掛けた。

 初めてなのでスマフォナビを頼りに進んだら、道玄坂に行ってしまった。そこの交番で道を教わり、「やっぱり、口ナビの方がいいなあ。」と呟いがたら、息子は少々不機嫌になった。

 今回は1980年に行われた「渡辺貞夫の武道館リサイタル」のアンコールとして企画されライブで、既に開場を待つファンが集まってきていた。

 私は、36年前に3日間で延べ3万人の聴衆が詰めかけたという「武道館リサイタル」で収録されたCDを聞きながら、このブログを書いている。 その時、渡辺貞夫は47歳位で口ひげを蓄えたジャケットの写真は、83歳の今に比べてば若々しいかぎりだ。そして、彼の奏でる音も激しく聞こえるが、歳月を経て磨きをかけてきた、まろやかで優しく響くサックスの音色の方が好きだ。

 17時30分の公演までに間があったので、専用レストランでサンドイッチを食べながら赤ワインを飲んだ。

 会場内のロビーも廊下にも絨毯が敷きつめられており、足音が響かないようになっていた。少し高級感もあり、中々の雰囲気を醸し出していた。

 会場内は撮影禁止であったが、公演開始前に2階席から写真を撮らせてもらった。

 会場はとても好い雰囲気ではあったが、着席してしまうと通り抜けが窮屈で座席間が少し狭かったような気がした。瞬く間に満席状態となり、公演の始まりを待った。

 連れだってきた仲間との会話で、場内全体がガヤガヤしていたが、開演のアナウンスとともに場内が暗転すると一瞬にして静まりかえった。

 そして渡辺貞夫がスポットライトを浴びながら登場すると割れ裂けんばかりの拍手が起こった。

いきなり甲高い管楽器(ソプラニーノ)の音が耳に突き刺さってきた。2階席から舞台までは、かなり離れていたが、まったくそれを感じさせない音響に、耳を疑った。

 身体をギュッと掴まれて、ナベサダのジャズの世界に引き込まれて行くように感じた。

 1曲目のアップ・カントリーの演奏を終えて、共演者の紹介をしてくれた。何と言っても38年前の武道館リサイタルで共演したディヴ・グルーシンが、今回もやって来てくれた。映画「卒業」で音楽監督を務め、ポール・サイモンとともにグラミー賞を受賞した人だ。この他に「黄昏」、「天国からのチャンピオン」、「恋におちて」などに音楽を提供し、「ミラクル/奇跡の地」ではアカデミー作曲賞を受賞している。私は映画好きで、ピッツバーグで「恋におちて」を字幕なしで観たのを思い出した・・・会話は良く解らなかったが、音楽は共通言語だと思う。

更にナベサダの大ヒット作品「カルフォルニア・シャワー」の編曲者で、グルーシンはナベサダと共に多くのジャズシーンを創り上げて来た。

 ナベサダは自分が表現したい音楽に共鳴すると思うプレイヤーに声を掛けると彼を慕って一流プレイヤーが集まってくるのだ。何せ、今年の10月にオバマ大統領夫妻が共催し、ホワイトハウスで行われた「国際ジャズデー」のライブに日本から渡辺貞夫だけが招待されたジャズ界のレジェンドなのですから。

 今回特に、パーカッション2名が刻むリズムには、ジャズの故郷アフリカの大地を踏み鳴らしいるような地響きを感じ、圧倒された。勿論、チャリー・パーカーをリスペクトしているとうナベサダのサックスには痺れたが、ロベン・フォードのギターソロに聞き惚れ、引き付けられた。他にもキイボード、ドラムス、ベースの海外の一流プレーヤーを揃え、更にサックス5名、トロンボーン4名、トランペット4名の国内で活躍する若手で構成されたビッグバンドであった。83歳ナベサダの人望の大きさを物語っていると思った。

 こうした若いプレイヤーにソロ演奏のチャンスを与え、83歳ナベサダの心憎い演出に、会場から大きな拍手がおくられた。なかでも奥村晶と松島啓之の若いトランペッター二人の競い合うような、懸命な演奏に感動を覚えた。

 オーチャードホールの2階ロビー
オーチャードホールの2階ロビー

1. UP COUNTRY

2. MZURI

3. TSUMAGOI(静岡県の掛川のつま恋)

4. ALL ABOUT LOVE

5. NICE SHOT

6. SEEING YOU

7. NO PROBLEM

8. BOA NOITE

                                       9. SUN DANCE

                                      10. M&M STUDIO(夫人と娘のイニシャル)

                                      11. MY DERA LIFE(資生堂のブラバスのCM)

 ナベサダは、武道館リサイタルでは東京フィルとの共演でグルーシンが指揮したが、その時と同じセットリストをアレンジして同じ流れで再演する語った。3曲目の「つま恋」に和製ジャズの雰囲気を感じ、心地よかった。そして11曲目の「マイ・ディア・ライフ」は、草苅正雄が登場する資生堂のブラバスのCMで耳に馴染んだメロディであった。それに、思い出話をとつとつと語るナベサダのトークが楽しかった。

 途中に20分の休憩を挟んで長時間に及ぶ公演とアンコール曲が終わっても拍手は鳴り止まなかった。やっとナベサダが登場し、両手を広げて「全部やってしまったよ。」と言ったが、誰一人席を立とうとしない観客にたまりかねて「それでは、ソロでやろう。」と言うと割れんばかり拍手が起こった。

 こうして三度、ナベサダのサックスに酔いしれることができた。ところが、更にサプライズが続いた。今度は客席に向かって「今日は、小野塚 晃君が来てるというが、一緒にやろうよ。」呼び掛けたのだ。若いピアニスト小野塚 晃が登壇すると「これは私からのクリスマス・プレゼントです。」と一曲を聴かせてくれた。観客は、おまけの一曲を聴いて大満足の拍手を送り閉演となった。

 この興奮も覚めやらぬまゝに出口に向かったが、中々進まなかった。やっと出口まで進んでみると、一人ひとりに資生堂からのプレゼントを配っていた。その赤い袋には資生堂の試供品とナベサダのサインと譜面がプリントされたハンカチが入っていた。こうして、このハンカチは私の記念の一品となった。

 少し遅くなってしまったが、高崎線の電車の中でもこの赤い袋を持っている人を見かけると、同じ空間と時間を共有したという親近感が湧いてくるのは、私だけであろうか・・・