渡辺 貞夫  ライブ 2017.12.16 Orchard Hall

SADAO WATANABE Re-Bop Night

昨年も渡辺貞夫 Orchard Hallのクリスマスコンサートにやってきたが、渋谷ぶんか村へ行くのに一本道を間違え、道玄坂まで行ってしまった…

 今年はスムーズにオーチャド・ホールに着いたが、夕食を食べる時間がなかったので、ホールでサンドイッチを食べながらワインを呑んだ。この時期、渡辺貞夫のジャズ・コンサートは恒例となっているので、ぞくぞくとフアンが集まって来て、グラスを傾けながら仲間と歓談する様子は、好い雰囲気だ…

 ふと、昨年のライブを思い出しながら、赤ワインを口に含んだ…

 口に広がるワインの香りが、そのまま期待感を膨らませてくれた。 

<SADAO WATANABE Re-Bop Night>

日本を代表するサックス・プレイヤー、渡辺貞夫がビバップをテーマに挑んだ最新アルバムを携えて登場!“Re-Bop Night”と銘打った今回のツアーは、NYで録音を行った多様な方向からジャズを表現したニュー・アルバム『リバップ』の凄腕プレイヤーが集結する。生涯現役プレイヤーとして第一線で活躍し続ける渡辺貞夫が放つ“ジャズ・ミュージック”を間近で味わえる極上の一夜となることだろう。

 このような解説が掲載されていたが、ライブに参加してみて、これ以上言葉を加える必要はないと実感した…「極上の一夜」を過ごさせてもらった。

ブライアン・ブレイド(d)、クリストファー・トーマス(b)、渡辺、サイラス・チェスナット(p)
ブライアン・ブレイド(d)、クリストファー・トーマス(b)、渡辺、サイラス・チェスナット(p)

<第一部>

RE-BOP

I MISS YOU WHEN I THINK OF YOU

IF I COULD

WARM DAYS AHEAD

I THOUGHT OF YOU

PLUM ISLAND

 

<第二部>

TOKYO DATING

8.15/2015

TREE TOP

BYE BYE BABE

DEEP IN A DREAM

WHAT’S NEW

I’M OLD FASHIONED

LIFE IS ALL LIKE THAT 

<アンコール>

CHRISTMAS DREAM

花は咲く

即興


ブライアン・ブレイド(dr)
ブライアン・ブレイド(dr)

ブライアン・ブレイド( 1970年7月25日  )

  アメリカ合衆国ルイジアナ州生まれ。幼いころはスティービー・ワンダーやアル・グリーンを聞き、ゴスペル音楽に触れ合って育つ。小学校に入ったころから様々な打楽器をたたくようになり、9歳から13歳の頃にはオーケストラでヴァイオリンも演奏していた。その後、兄の影響でドラムを演奏するようになる。18歳になりロヨラ大学に通うためにニューオーリンズに移住。そこでエリス・マルサリス等のニューオーリンズに住む有名ミュージシャン達とセッションを交わした。

 ナベサダお気に入りのブライアンは、最近人気でスケジュールを押さえ難いが、来年のツアースケジュールを押さえることが出来たと、ニッコリ笑いながらブライアンを紹介した…

 そのブライアンの演奏スタイルは本当に楽しそうで、見ているこちらも彼のドラムのリズムに乗せらて行ってしまう気分になる。それでいて、決して自己主張をせず、他の奏者とバランスのとれたドラミングは、ナベサダが惚れ込む訳だと密かに得心した…

クリストファー・トーマス(b)
クリストファー・トーマス(b)

 クリストファー・トーマスは、ブライアンの紹介で、今回初めてツアーだと彼を紹介してくれた…

 私は「人間の記録174 渡辺貞夫 ぼく自身のためのジャズ(日本図書センター)」の本の中で、メンバーに関する記事を読んだことがる。『・・・ぼくのサイドメンに年中文句言ってるわけだけど、・・・スティックの振り方はどうだとか、ベースを弾くときの腰がどうだとか・・・たとえば簡単な話、タイムがおかしい人は、これはもう姿勢をパッとみるだけでわかるよね。・・・ぼくがステージの上で体をゆすっているときってのは”そうじゃないんだ”といってゆすってときの方が多いんだよ。・・・

サイドメンがいいときは、ぼくは引っこんじゃうしね。任せられないとウロウロしちゃうわけね。』

 このことを思うと、今夜のステージでは袖の方でリズムを取りながら、出番を待っている方が多かった…初めて組んだトーマスのベースに充分満足して任せていたんでしょうね…でも、時にはトーマスに近くへ行き、さあもっと来いとばかりにけしかけるようなシーンもあった。それに応えるトーマスの高音部のベースの響きは、私の背筋をゾクゾクっと震わせた…

 そして、このクリスマス・コンサートで今年のツアーを締めくくると満足そうに語った。

サイラス・チェスナット(p)
サイラス・チェスナット(p)

サイラス・チェスナット 

生年月日: 1963年1月17日 (54歳)

生まれ: アメリカ合衆国 メリーランド州 ボ   ルチモア

映画: ヴァリアス/ピアノ・グランド!~スミソニアン・セレブレイション

学歴: バークリー音楽大学、 ピーバディー・インスティテュート・オブ・ザ・ジョンズ・ホプキンズ大学

 今晩の座席は、ピアノのチェスナットの背中が見える位置であった…背後から見たチェスナットの背中の広さ、お尻の大きさからして、最初は女性ピアニストかと思った…ところが、幅広いお尻の男性の奏でる音色の幅の広さには驚かされた…澄んで転がるような高音部、ズスンとくる低音の響き…曲目によりしなやかな指の女性のように、また別の曲では頑健な男性の演奏にかわるという、変幻自在の音色で楽しませてくれた。

 この写真は、上記で引用した『渡辺貞夫の著書』で、あの11.3.11の東日本大震災直後の4月25日に発刊された。渡辺貞夫が語り、評論家の岩浪洋三氏が編集し、語り切れなかった箇所には適切な解説が加筆されおり、ナベサダの今日の音色が生まれるまでの数々体験が記録されいた…

 この本の最後に『渡辺貞夫のリーダー・アルバム』として82枚もアルバムが、彼の音色の歴史としてリストアップされていた…

そのリストを辿って行くと、私の大好きな鈴木良雄(b)と増尾好秋(g)が共演したアルバムが10枚ほどあった…その殆どを息子が持っているので、じっくり楽しませてもらっている…息子はライブの度にお二人にサインをお願いすると、それぞれを懐かしそうに手に取り、思い出話を交えながらサインをしてくれていた…二人共自分のバンドを率いているので、近年の共演は難しいようだが、いつの日かナベサダと共演のライブを観たいものだ…

 

 『この本は、はじめは自身の備忘録として進めてきたが、自分の口からでた言葉は自分への約束となり、いまや挑戦となってぼく自身にはね返ってくる。』と語っていた…

 この本で語っているように80代となった今も、なお進化続けるナベサダのサックスは、聴く人の心を優しく和ませてくれる。とっても好い心地だ…

 今夜もアンコールの『花は咲く』には、胸が熱くなった…ナベサダの澄んだ哀愁を駆り立てる響きは、聴く人の涙さえ誘う不思議な力がある…

 <再アンコールに応えた即興演奏>
 <再アンコールに応えた即興演奏>

 アンコールが終わっても、誰一人席を立とうとしなかった…暫くの沈黙の後、再び大きな拍手が巻き起こり、それがやがてナベサダ・コールの手拍子に変った…

 誰もいない暗転したステージにライトが燈され、サックスを持ったナベサダが現れた…大きな拍手とともに即興演奏が始まった。何の音響装置も無しの”生音”がホールに響きわたった。こんなにも大きな音で、朗々と響くサックスの音色に観客全員が、引き込まれていった…だれもが、大満足のシーンである。

 本の中に『・・・聞きにきた人がお金を払った分だけは返したという気持があるからね。』とプロ根性が語られていたのを思い出していた…

 

 渡辺貞夫が敬愛してやまない『バード』の愛称で呼ばれるサックスプレイヤーの詞が、この本の表紙を捲った頁に記載されていた…

 

『 音楽とは君自身の経験であり、君の思想であり、君の知恵なのだ。もし君がまことの生活を送らなければ、君の楽器は真実の響きをもたないであろう。

チャーリー・パーカー 』